イクちゃんと象さんとTedくん
エレベーターに乗って下りようとしてた。
途中から乗り込んできたその人が押す階のランプが点かない。
これは下りですよ、
というと、
その人は慌てて降りようとするので
もうすぐ一階ですから、このまま乗ってらしたらいかがですか?
と、押しとどめた。
『私ったらバカね』
と、その人は昔はどれほど美しかっただろうか、今も端正で華やかな顔立ちを、
懸命に、
無理やり、
微笑ませようとしていた。
私だって乗り間違えたこと、何度もありますよ。大丈夫。
『ありがとう』
不意に、
その人はあたしの肩に顔をうずめた。
さすってみた背中は背骨の一つ一つを数えられる程で。
そして、ゆっくりと、エレベーターは昇っていく。
病室に行く前に目元を直して。ね?
窓の外の曇り空の向こうに、ぼんやりと山が見える。
なかなか、梅雨は明けませんね。
そのワンピース、いい色ですね。
背骨を数えながら。
背骨が、
すこーし、
柔らかくなってきたところで。
外に出ると雨がまた降り出してた。
肩の涙は温かい雨でじわじわ、
薄まっていく。