あるもんで。
デートしてきました。
バイトで壊れかけたおばちゃんが、
「りんちゃん、あの店、また行きたいなあ」
と、毎日のよーに。
背後で、呪文のよーに。
唱えるので、
ていうか、あたしも久々に食べたくなったので、
行ってきた。
交通的に不便な場所なので、車がないと行きにくい。
仕事先も大概そんな感じだけど、そこは仕事先とも関係がないので、
しばらく行ってなかったんだにゃ。
うまかった。
うん。
このおばちゃんはちょっとわがままなところもあるけど、
なんか人間臭くてかわいいから許す。
ストレートなわがままは対応しやすいねん。
中途半端なんがしんどい。
どこで食事する?何が食べたい?(あたしは何でも食えないものはない)
「ええー何でもいいですううう」
じゃ、あそこの中華にしよか。
「ええ〜、カロリー高そう〜」
じゃ、あのうどん屋さんにする?
「ええ〜、もっとこってりしたほうがいいかなあ」
じゃ、あのラーメン屋さん?
「ええ〜、ここまで来てラーメンですかあ」
じゃあ、あの和食屋さん?
「ええ〜、あたしオサカナきら〜い」
どついたろか。
「あとおさんがあ、男のヒトだったらいいのにぃ〜。そしたら彼になって欲しい〜」
あたしが男なら、オノレのような彼女はイヤである。
友達が手術・退院が重なった。
一人は生まれたてくらいからの付き合いなん。
彼女もあたしも、めばちこ(関西弁で「ものもらい」のこと。こっちの方が「ものもらい」より破壊力がありそうな語感ですね)としもやけにはなったことがない。
ところが、ある日いきなり、めばちこが出来たらしい。
日々忙しいと、医者に行かずに済ましてしまうことも多いけど、不審に思って病院に行ったら、脳腫瘍の初期だった。
術後三日でもう院内を歩いてた。
「頭開けたらね、右脳がすっかり石灰化してるんやて。いつからかわからんけど」
もう長い間、左脳だけで彼女は、子育ても仕事もやってきたんや。
このヒトは、昔から愚痴も言わないし、コツコツきちんとやるヒトで、ドンブリ勘定型のあたしとは違っている。
あたしには「絶対できないなあ」と思うことを、着実にやってのけるのんであるが、余りに控えめなので、誰も彼女のすごさに気が付かない。
でも、彼女は誰かにすごいといわれたいとも思ってないみたいだから、それでいいのだろう。
連絡を受けたときには、肝が冷えた。
でも術後だったので、ほっとした。
左脳だけでもあれだけすごいんやから、やっぱり彼女はもともとがすごかったのだろう。
自分の範囲を周りも内部もきちんと把握してるん。
だから、大事な変化は見逃さない。
それが、他のヒトにとってはごくわずかな変化であっても。
自分の能力と嗜好をきっちりつかんでいる。
自分の持ち札を必要な時にきっていける。
それはレアなカードでなくていい。
一発逆転なんてなくていい。
他からカードを奪わなくていい。
彼女は最初から、魔法使いが世界を変えてくれるなんて思ってない。
自分は、自分、と思っているだけ。
あたしが数年ぶりに、あんたに会いに行ったのは、
あんたが心配ていうよりも、
あんたは、あたしの為に生まれてきたわけじゃ、もちろんないわけだけど、
それでも、この世にあんたが、今も生きていてくれて、あたしがほっとしている、それが現実であることを、あたしが確認して、より安心したかっただけやね。
あんたは「りんちゃんみたいにできひん」て言うけど、あたしかて、逆立ちしたって、あんたの様にはできひんもん。
だから、あんたはあんたができることをする。あたしもあたしにできることをする。あのヒトはあのヒトができることをする。
できないことはしなくていい。
ただ、困ったことに、
やってみるまでは、ある程度やってみないことには、
出来るかどうかわからないことが多いんやけどね。
ほんま。
で、話はデートに戻るが、
おばちゃんが煮物をくれた。
うまいなあ。
酒がすすみます。
「本見て、とかして料理できひんねん。あかんわー、レパートリー少ないねん」
ていうけど、安心できる定番があったら十分なんとちゃうん。
あたしかて名前のついた得意料理って、別にないで。
マーボー豆腐みたいなん食べたい、と思っても、麻婆豆腐の素を使うか、手元に無かったら、赤味噌とか七味唐辛子やらを適当に使って「和風麻婆豆腐みたいなもん」をつくる。
酢豚も面倒だったら、鶏の唐揚げ使う。にんじんや筍がなかったら、根菜類なら大抵大丈夫なので、レンコン使ったりするし。たまねぎ無かったら長葱でええやんか。青葱でもええじゃないか。赤色が無くて淋しかったら、赤い器に盛ったらええやん。
て、話が戻っているようで戻ってないな。
そういや、先日あり合わせで押し寿しを作ったら、作り方を聞かれたので、教えたら、崖から突き落とされたような顔をされた。
ご飯を少なめの水で炊く。
チリメンジャコと昆布を酢に入れて沸かして、みりんと塩を適当に入れたのを少しずつご飯に混ぜる。ジャコがなかったら鰹節でもええんとちゃう?面倒臭かったらすし飯の素とか寿司酢でもええんとちゃう?ゴマがあったら混ぜたらええんとちゃう?紅ショウガ刻んだのを混ぜたり具にしてもええね。
丸いタッパ−ウェアにラップしいて、寿司飯、具、寿司飯、具、と順番に重ねて一回り小さなタッパ−の容器で押して、ショートケーキみたいに切り分けたけど、四角い容器でも良いし、普通のお皿や鍋でもいいよ。ラップだけで巻いて、ロールケーキみたいに切り分けてもいいよ。巻き寿しみたいに綺麗に巻けなくても彩りが揃ってたら面白いと思うよ。
ここでは、大葉(しその葉)をきざんだの、ツナ缶、ロースハム、ビンの乾燥パセリ、炒りタマゴを使ったけど、海苔も勿論いいよ。インゲンとかレンコンもいいし、貝や焼き鳥の缶詰とかでも勿論いいし、刻んだ万能葱でも美味しいんじゃない?シャケ缶もええし、スモークサーモンとかでもいい。シバ漬けも美味しいんじゃないかなあ。コーンをマヨネーズで合えたんも良いと思うし、かにカマでもいいし、
とか、言うてたら、
「材料を買い揃えられない」
と泣きそうな顔で言われた。
料理でもなんでもそうやけど、何もかも揃えてからでないとできひんと思いこんでるヒトが多いな。自分の馴染んでるところから、少しずつ広げていきゃええのよ。たぶん。