おめでとう

 お誕生日を迎えたヒトビトがいたので。


 今日も今日とて墓参り。信仰心はかけらもないんやけど、年寄りが長年続けているものをムゲにしては気の毒やん。つうことで、きょうもひしゃくはつかわんかったけど。


 汗どぼどぼかいて、一休み。水をガブガブ呑んでたら、家族連れがとおりかかった。


 小さい子供が虫かごをぶら下げてた。

 
 わー、見せて、見せて!


 ぶいぶい(かなぶん)、セミ(あぶら)まではともかく、オニヤンマが入ってる!


 これ、とるん大変やったやろ?


 と、思わず賞賛。


 コドモは眉間に皺寄せ、うんうん、とうなづいた。


 じゃあ、ありがとう、


 と、立ち去ろうとしたら、


 「あ…」

 
 んー?


 「あの…」


 んんんんー?


 
 もじもじ。


 「あの…。ちからこぶ。さわってもええ?」


 え?


 ああ。


 あたしの腕はたくましい。


 「わあ。かっこええなあ」


 そうか、かっこええか。


 「すいません。この子が失礼なことをして」


 いや、別に触られたって減らへんし。


 「…。あのう…」


 今度はお母さん(あたしより一回りくらい年下かなあ)がもじもじ。


 ん?


 「あのう…」


 はい?


 「わたしも、ちからこぶ、触ってもいいですか?」


 え?


 まあ、ええかあ。

 
 「きゃあ、すごいすごい」


 そしたら、その友達らしい、親子も近づいてきて


 「あのう…」


 「きゃあ」


 「いやーん、すごい」


 おパンツに一万円札とかは挟んでもらいませんでしたよ。






 今月、あたしも誕生日を迎える。


 あたしと同い年になるはずだったヤツがいる。




 線香のかわりにタバコをふかして、手を合わす。